◎機内にて

 飛行機が離陸した。眼下にイスタンブール市内が小さく見える。まだ高度が高くないので、市内の建物がはっきりとわかる。さらば、イスタンブールよ! 飛行機は黒海沿いを飛ぶ。眼下にアナトリアの大地が見えたが、すぐに雲が覆って見えなくなる。しばらく粘って景色を見ていたが、やがてあきらめる。

 高度も十分になり、安定してきたので、シートベルト着用のサインが消える。みな思い思いに、行きと同じように三列占領や毛布を掻き集めてくつろぎ始める。後ろの団体は知らないが。トルコ航空謹製のトラベルセットをもらう(これは行き帰りで、夫婦併せて2セット×2もらった。)。 アイマスクや歯ブラシ、ハンドタオルなどが入っていてよい。国内旅行にも使えそうなので、大事にしまう。

 新聞をもらう。日付は昨日のだが、滞在中新聞もテレビも見ていなかったので、情報はありがたい。なんだかアメリカ大使館がテロにあったり(これはゆゆしき事態だ)、長島さんが坊主になったようで(これも人によっては大変なことだったらしい。当然上にくらぶるべくもないが。)、世界は刻一刻と動いているのを感じる。と、新聞の隅に「新潟県笹神村洪水」 の記事を見かける。二人で顔を見合わせる。そう、奥さんの実家がここにあるのだ。私も何回か行ったことがあるが、田んぼに囲まれた農村地帯である。元々この辺りは湿地帯で、それを江戸時代からの新田開発などで農地化している。そのため、水はけには非常に注意を配っており、現に私が行ったときにも、排水用の河川を掘削していた。

 短い記事を読んでいると、本当に実家の近所らしく心配になる。関空に着いたら電話しようと決心し、それ以上考えてもしょうがないので、ここまでとする。

 しばらくして、最初に飲み物、続いて夕食のサービスが始まる。おなかが空いていたのでがっつく。満腹だ。食後のお茶を飲んで満足。機内では映画をやったり、現在位置を示す画面が表示されている。まだまだ日本は遠い。

 日が暮れる。月が出てくる。まぶしいくらいだ。雲に反射して非常に美しい。しばらくぼーっと見る。

 おなかが膨れてきたが、膨れすぎて苦しい。(^_^;) 途中何度かトイレに行く羽目になり、更に毛布をかぶっているのいいことに、ズボンのベルトを外す。奥さん呆れる。

 眠くなってきたので、眠ろうとするが、後ろの席の兄ちゃんが、スチュワーデスとしゃべりだす。スチュワーデスも兄ちゃんの隣の席に座って、盛り上がっている。職場放棄だし、他の乗客の迷惑だ。日航! 社員教育ちゃんとせい! トイレに行くときにちらっと見たが、もう兄ちゃん鼻の下のばしっぱなし。あ〜あ、呆れた。機内音楽を聴きつつぼーっとする。

 気が付くと眠っていた。丁度中国の新疆上空である。隣の国まで来た、といっても未だ遠いが。

 しばらく本を読んだり、またうとうとしたりする。夜が明ける。朝食の時間だ。毛布も適当に畳み、身の回りを片づけて、御飯を食べる。トルコ風食事もこれで本当に最後だと思うと、機内食なれど上手い(元々おいしいけれど)

 韓国上空を過ぎ、いよいよ日本が迫ってきた。中国山地を横切り、「あ〜、日本ってやっぱり山に緑が多いねえ。」 と、トルコとの違いに今更ながら驚きつつ、景色を見る。後ろの席のおかげで、正味四時間程度しか寝ていない。多少ラリラリしているが、新潟の洪水の件や乗り換えのことなど、そうぼーっともしてられない。

 瀬戸内海が見える。高度も下がってきたので、漁船やらが見えるようになる。さすがにマルマラ海と違い、豪華客船やヨットなどは浮かんでいない。バブル(余談だが、学部の卒業式の時、主賓の某企業の会長だかが「バルブ経済」 と言ってしまい、それが大受けしたことがある。開きっぱなしと言う点では、いい比喩だったかもねえ。)の時は、やれヨットだどうのこうのと言っていたが、やっぱり海での優雅な遊びという点では、日本人はまだまだ適わない。

 いよいよ着陸である。荷物も片づけて準備万端。着陸だ。定刻より三十分ほど遅れている。う〜ん、帰ってきた、という実感がわく。

 飛行機を降りる。関空はだだっ広いというより、ガランとして殺風景だ。入国手続きをする。なんか係りの人が非常に仏頂面だ。日本の役人てこんなもんなんかもしれないが、やはり夏の暑い盛りに「てめえらだけ遊びに行きやがって」 と思っている要素も混じっているのだろう。こればっかりは仕方ないが。税関では「何か申告する物ありますか?」 と聞かれたので「ないで〜す」 と明るく答える。まあ絨毯を担いでいたが、二人で四十万円まで免税なので、なんとか許容範囲である。これが絹の絨毯だったらそうはいかないだろう。税関のおじさん達は愛想が良かった。さっきの入管とは偉い違いだ。

 移動用の新交通システムに乗る。我々は、はるかで京都に戻るが、他の人は新幹線だの、羽田までの乗り換え(四時間待ちだそうな)だのがあって、実は我々が一番早く帰宅できるみたいだ。ここで同行者とはお別れ。一週間、御苦労様でした。

 カートをガラガラさせつつ、関空の駅に行く。奥さんがカートに乗って楽をしたがったが、それをしたいのはこっちも山々なので、だめを出す。駅に着く。公衆電話があったので、奥さんが実家に電話をする。出ない・・・。電話も通じないのか? と心配になる。後日聞いたら、実家の周辺は無事だったが、近所の潟湖が一回り大きくなり、田んぼもかなり水に浸かったようだ。秋の収穫が心配である。無事なことを祈ろう。

 はるかに乗る。気が付くとガースカ寝ていて、目が覚めると新大阪。次に気が付いたら京都駅が間近である。やあ、近いねえ。(^_^;)

 京都駅。相変わらずむ〜んとしている。暑い! 駅を下りる。タクシーに乗って家路につく。

 帰宅。あー疲れた。荷物を片づけ、着替えをして寝た・・・

 これにて、おしまい。

 全文読まれた方、長のおつきあい有り難う御座いました。


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