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范曄は南朝の貴族の名門である南陽范氏の出で、祖父の范寧は『春秋穀梁傳集解』の著者として知られています。彼は397年に生まれ、順調に出世をするものの、432年に劉宋文帝の弟である劉義康の母親の葬儀で問題を起こし、宣城太守に左遷されます。その間に『後漢書』を書き上げました。のちに中央政界に復帰して政府の機密に携わる立場になりますが、孔煕先の劉義康擁立事件に加わったため、446年に公開処刑されました。その為、本来は執筆する予定であった十志が付かず、『後漢書』は『三國志』と同じく本紀と列伝のみの構成になっています。
彼は非常に文章に自身があり、また司馬遷に習って史論にや評語に力を注いでいます。その為、『三國志』と同一の記事を記した場合でも、文章は読みやすくなっていますが、そこには「范曄がこう解釈した」というフィルターが在ることを忘れてはいけません。しかし三国・晉代には書けなかった記事(例:荀イクの死亡が、自殺ではなく憤死に近かった等)も見られますので、一概に『三國志』のみを参考にする訳にもいきませんが、おおむね後漢末〜三国に書けての記事は、『三國志』を参考にする方が良いでしょう。
代表的な著作としては、以下の物があり、後世『八家後漢書』と称されました。
孫呉 謝承 | 『後漢書』(130巻 輯本8巻) |
孫呉 薛瑩 | 『後漢書』(65巻 輯本1巻) |
孫呉 華嶠 | 『後漢書』(97巻 輯本2巻 『晉書』華嶠傳では『漢後書』) |
東晉 司馬彪 | 『続漢書』(83巻 輯本5巻) |
東晉 謝沈 | 『後漢書』(122巻 輯本1巻) |
東晉 袁山松 | 『後漢書』(95巻 輯本2巻) |
佚名 | 『後漢書』(輯本1巻) |
東晉 張璠 | 『漢紀』(輯本1巻) |
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現在の諸版本は、下に挙げる李賢注『後漢書』に、この『續漢書』八志の劉昭注を合刻したものですが、注意しなければならないのが、この『續漢書』八志の収録位置が、版本によって列伝の前に付けるか後ろに付けるか異なる点にあります。書物の来歴から判断するに、列伝の後ろに附載する形式が当初の形式だったようですが、その為に、『後漢書』を引用する場合には、他の書物のような通巻で表記する事はせず、「『後漢書』本紀某卷」「『後漢書』列伝某卷」「『續漢書』志某」等のように表記する事が決まりとなっています。
中華書局本『後漢書』も、李賢注本の南宋紹興本をベースに汲古閣・殿版を参考に校勘・標点を行っています。一般の利用ならばこれが一番便利でしょう。値段は本屋によって異なりますが、5〜7000円程度します。
李賢の注釈とはいうものの、実際には彼個人の著作ではなく、配下のブレーン(張大安・劉訥言・格希元等)が分担して執筆しています。李賢注は、言葉の解釈(『漢書』顏師古注等)と史実の追加(『三國志』裴松之注)との両方を兼ね備えていますが、当時完成したばかりの『漢書』顏師古注や、まだ残されていた他の『後漢書』が大いに参考にされたようです。
中華書局版に準じた人名・地名索引が出ています。しかし現在は人名索引は絶版中です。ただ、百納本用に京都大学人文科学研究所から『後漢書語彙集成(上下)』が出ています。これは一時索引ですので、便利なことは上記索引よりも上です。しかし、値段が古本(京大人文研の本は、新刊で出回ることはまずないです。)で三十万円前後しますので、一般には購入はおろか、見かけることもまず無いのではないでしょうか?
汪文台(輯) | 『七家後漢書』(文海出版社) |
汪文台(輯) 周天游(校) | 『七家後漢書』(河北人民出版社) |
周天游(輯注) | 『八家後漢書輯注』(上海古籍出版社) |
呉樹平(校注) | 『東觀漢記校注』(中州古籍出版社) |
荀悦 袁宏 | 『前漢紀』『後漢紀』(万有文庫) |
注釈は李賢注をベースに適宜注釈や現代語釈を補ってあります。李賢注の読みに関する注釈は、脚注ではなく本文中のルビ等に含まれる場合がありますので注意してください。
注釈は李賢注+補注ですが、こちらは李賢注も原文+訓読+現代語訳しています。
吉川本は王先謙の『後漢書集解』(底本は明の汲古閣本)ですが、大東本は俗に「上杉本」と称される南宋慶元刊本(国立歴史民族学博物館蔵)を採用しています。
もちろん、両方共に底本をベースに他本を利用して校訂を行っています。
両者の違いはこの他にもありますが、大東本の解説にも書いてあるように、吉川本は専門家向け、大東本は初心者向けという所でしょうか。従って、吉川本は簡潔に書かれていますし、大東本は時に冗長すぎる面もあります。ただ、大東本の注釈はそれだけでも『後漢書』ミニ辞典的な利用も出来るかと思います。
特に吉川氏の解説は、范曄についての専論をベースにして書かれていますので、必見です。